「少年八犬伝」(小野裕康)復刊投票にご協力を!

少年八犬伝〈上巻〉少女の予言 (地平線ブックス)」「少年八犬伝〈下巻〉海を呼ぶ (地平線ブックス)」(小野裕康)
 1988年刊行、こんなすごい作品を今まで知らずにいたとは……。あまりにそっけないタイトルと装幀ですから、出会うべき人が見逃している可能性は高いかと思われます。
 超小型原爆によるテロが起こり、国民の自由が規制されている日本の話です。県教育省、愛県婦人連盟、陸上少年団なんていうのが跋扈し、子供は常に監視され管理されています。子供に人気のある先生は政治犯収容所に捕まって、釈放された時には発狂してしまいます。そんな中で八犬伝の玉を持つ少年少女が集い、自由を求めて戦いを始めます。
 出版された時代が早すぎたということはないと思いますが、今読んだ方がしっくりくることも多いです。主人公の父親は反政府の発禁作家で母親は議員。当然善玉が父親で母親は悪役です。このふたりが勝ち組負け組論争などをしています。母親のせりふを引用します。「自由っていうのはみんなでつくりあげていくものだわ。外国に攻められて負けちゃったら、いまあたりまえのように思っている自由なんて、あっというまになくなってしまうのよ。この国のみんなで自分たちの自由を守って行かなきゃ……。そのためにもひとりひとりが小さなわがままをすてて、団結しなくちゃいけないと、おかあさんたちは思うの」。この発言のよしあしについてはそれぞれ政治的判断があると思いますが、少なくとも88年ではこういう発言をする人物は悪役だということになっていました。
 県教育省、愛県婦人連盟、陸上少年団、これだけでもう反権力で燃えてしまいますが、ほかにも独特の小道具が登場します。冒頭はベテランが活躍する新球団(楽天と違ってそこそこ強い)を主人公が応援する場面です。センターの大川はしょうゆまち商業から入った選手だといいます。しょうゆまち商業……ものすごい言語感覚です。わざわざ選手のオーダー表が載っているので重要な伏線があるのかとも思いましたが、特に意味はなかったようです。そして主人公のケンタは「モモ」のような薄汚れた少女エリと出会い、犬士としての使命を教えられます。そこからはもう怒濤の展開です。トリフィドのような人食い植物が子供を襲い、パラレルワールドからの敵も現れ、どう収拾をつけるか予想も付かないまま、結局収拾がつかず終わってしまいます。
 わたしはこの作品を2ちゃんねるの児童書板小野裕康スレで知ったのですが、このスレッドが愛情にあふれたいいスレッドで感動してしまいました。そこでもさんざん言われていたとおり、この作品は尻切れトンボです。その点ではまったく弁解の余地がありません。でもそれでもなおこれだけ読者に愛されている、非常に希有な作品です。欠点はたくさんありますが、それを補って余りある底知れないパワーを感じます。リンクは貼りませんが、少年八犬伝を未読の方はまずこの児童書板のスレッドを探して読んでみてください。にわかファンのわたしに言うべきことはそれ以上はありません。
 ぜひ復刊投票に協力してください。復刊ドットコムのコメント欄を見ると、大幅な加筆修正をした上での復刊を望む声が多くあがっています。これが愛されている証拠です。ファンは作品や作者に過剰なまでに期待しています。小野裕康がいま制約なしで好きなように少年八犬伝を書いたらどんなすごいことになるのかわたしも大いに期待しています。復刊ドットコムへの投票はこちらにお願いします。

少年八犬伝〈上巻〉少女の予言 (地平線ブックス)

少年八犬伝〈上巻〉少女の予言 (地平線ブックス)

少年八犬伝〈下巻〉海を呼ぶ (地平線ブックス)

少年八犬伝〈下巻〉海を呼ぶ (地平線ブックス)