「グランパのふしぎな薬」(鈴木浩彦)

グランパのふしぎな薬 (子どもの文学 (52))

グランパのふしぎな薬 (子どもの文学 (52))

 児童文学界は慢性的にSFを書ける人間に恵まれていません。児童文学に良質なSFが無いと未来のSF読者を育てることができないわけで、最近では青い鳥文庫のFシリーズなどの試みがありますがなかなかうまくいっていないようです。今になって思えば鈴木浩彦のグランパシリーズは80年代の児童書SFを支えていたんだなあと、懐かしい思いで読みました。
 グランパシリーズは、おじいちゃんが孫に自分の子供時代のホラ話を聞かせるというスタイルの話です。舞台が80年代の近未来の話なので今になって読むとギャップがあっておもしろいです。本はほとんどマイクロフィルムになっていて紙の本は少なくなっている、そんな未来です。
 本巻のタイトルのふしぎな薬とは加速剤のことです。ひょんなことからカタツムリ型の宇宙人を助けたグランパはそのお礼として加速剤をもらうのです。なぜカタツムリ型宇宙人が加速剤を持っているかについてもきちんと説明されています。惑星の公転周期が長いためカタツムリ型宇宙人は非常にスローペースで活動するので、加速剤なしでは他の星の人間と交流できないからだというのです。加速剤を使い通常の三倍のスピードで活動できるようになったグランパは野球の名人になり、とうとうスカウトされてプロ野球で活躍するようになるという、何とも荒唐無稽な話です。きっと「漫画みたいな話」といわれて「こんな本を読んだら馬鹿になる」とか非難されていたんだろうと思われます。それだけに子供には人気のあるおもしろい本でした。
 シリーズは確か全五巻だったと思います。加速剤にはじまってSFの基礎からたどっていける、SFの入門編としては非常に良質なシリーズでした。
 ちなみにイラストは村上豊です。イラスト目当てでも一見の価値有りです。