「ねぎ坊主畑の妖精たちの物語」(天沢退二郎)

ねぎ坊主畑の妖精たちの物語 (fukkan.com)
ねぎ坊主畑の妖精たちの物語 (fukkan.com)」(天沢退二郎
 天沢退二郎復刊ラッシュはまだ終わらないようです。続いて「夢でない夢」も復刊しました。あと可能性がありそうなのは「水族譚」です。復刊ドットッコム様、もうひとがんばりお願いします。
 「ねぎ坊主畑の妖精たちの物語」ですが、まあ、難解で扱いに困ります。「三つの魔法」のサイドストーリーもあるのですが、新しいアイテムや言葉が出てくるだけでかえって混乱させられます。冷静に冒険物語として見るとそれほど特異なわけではありません。ところが出てくる道具立てが独特なのでほかにはない味わいがあります。短編集なので一つずつ見ていきます。ネタバレには配慮しません。

「ねぎ坊主ばなし」から

ショウガ畑とニンジン畑の妖精は互いに仲が悪い。それを懲らしめるためかわからないが、ギャラスケルという得体の知れない生物が畑に降ってくる。これだけの話です。ガラスのような生物が畑を破壊する様子が不思議と美しく描かれています。

びわとヒヨドリ

 「わたし」は空き家の庭になるびわの実がヒヨドリに食べられないことを不思議に思っています。「わたし」は夢の中で木の精からことの真相を聞きます。鳥と話す能力を持っている「わたし」は真相を鳥たちに伝えようと思いますが、木の精と話してしまったためその能力を失ってしまいます。
 この作品集の中ではわかりやすい作品です。問題を解決するための知識を得たのに、同時に解決する手段を失ってしまうという皮肉。現実にもこういう事態は起こりうるのでしょう。

夜の道

 京志は夜中に突然、汽車を見に行きたいと思い立ち出かけます。途中でタンポポの小人や沼人間など異形のものに会い、汽車から荷物を持ってくることを頼まれます。京志は汽車に「王女さま」が乗っていることを密かに期待します。汽車を見て小屋にかえって京志が見たものは、ベッドに横たわった自分の体とそれを取り囲むように座り込んでいる4人の老女でした。
 二人の妹のキャラが濃いのでいまいち印象の薄い京志ですが、今回は主役を張ります。魂が抜けて危険な冒険をしてきたのでしょう。王女さまや老女たちの正体はまったくわかりません。

杉の梢に火がともるとき

世界が消滅するほどの力を持った名前の物語です。いつものように主人公を助けるのは女の子なのですが、アイスクリームに毒を入れて敵を足止めしたり、キャンディーに呪術よけを施していたりと、また独特な魔法を見せてくれます。

人形川

 子供がワラ人形にすり替えられるというお話。子供だけで訳のわからない敵と戦うというイメージが恐怖を誘います。

グーンの黒い地図

 父親を助けるためにグーンの黒い地図を手に動く大門一郎と、彼を救おうと活躍するエブリデー・マジックの使い手伊藤シズエの物語です。グーンに関する重大な設定が明かされています。

まとめ

 どの話も説明不足で非常にフラストレーションがたまります。ただわけのわからない単語は多いのですが、それが作品世界にしっくりきているということは不思議と納得させられます。まだわたしには天沢作品の魅力を言葉で伝えることは出来ません。合う人には過剰に入れ込んで楽しめる作家だということだけは確実にいえます。