「虹への旅」(芝田勝茂)

虹への旅 (ドーム郡シリーズ)
虹への旅 (ドーム郡シリーズ)」(芝田勝茂
 ドーム群シリーズ2「虹の旅」はうそつきのマリオの物語です。口先だけで生きてきた人間が行動を起こすようになるということで、成長物語としては前作よりわかりやすくなっています。そして本当にしなければならない嘘もある、美しい嘘は本当にできるという力強いメッセージがこめられています。戦火を逃れるために、マリオは自分が森の王ヌバヨであるというでまかせを言います。しかし、戦争を終結させるために行方不明の王女ラクチューナム・レイをつれてくるという探索の旅を通して、彼は本物のヌバヨになります。
 さらにもうひとつ、戦争という難しいテーマを扱っています。こっちに関しては理想と現実がせめぎ合っているだけに釈然としないものが残ります。そもそも正統な王の血筋のものをつれてきたら混乱が収束するという考え方はアナクロニズムもいいところです。もちろん芝田勝茂はそんな結論には着地しません。万民がアイザリアの王であるという結論になり、王女ラクチューナム・レイであるところの少女ノームは王座を蹴って自分の道を進みます。結論はそれでいいんですが、それに至る過程で王族の権威を利用していることは確かです。結果よければ全てよしとは割り切れません。それ以前に、あれだけ戦争は嫌だといっておきながら結局は武器を取って戦わざるを得ないというのも受け入れがたいです。理想を語るなら手段は選んでほしい。でも、これが現実の難しさなんでしょう。戦いは嫌だという理想論だけでは現状を変革することは困難です。それを説明するだけの議論は作中で尽くされていると思います。手放しではほめられないけれど、マリオやノームは最善を尽くしたと思います。
さて、待望の3ですが、こういう事になりました。

ドーム郡シリーズ3(完結編)『真実の種、うその種』(芝田勝茂作、佐竹美保画)小峰書店から、7月中旬に発売されます。

 ということです。ソースは芝田勝茂のブログと小峰書店のサイトより。フユギモソウの脅威再びというお話になるようです。ようやく公開されたタイトルも意味深長で期待させます。それに完結編と明言されていることもショックです。これでシリーズが終わってしまうのだと思うと寂しいです。2004年はズッコケ三人組完結の年、2005年はドーム郡完結の年として人々に記憶されることになるでしょう。巻数だけを見れば両者を比べることはできません。でも、ドーム群シリーズは熱心なファンに語り継がれて、20年近くもの時を越えて復刊、完結編の発表という流れにいったのですから、質の違う重みがあります。