追悼・長新太「長新太のチチンプイプイ旅行」

長新太のチチンプイプイ旅行

長新太のチチンプイプイ旅行

 全日空の機内誌に連載されていた作品だそうです。全日空も無粋ですね。飛行機の中で現実の旅よりおもしろいものを見せちゃダメでしょう。
 内容はゾウアザラシのいない「なんじゃもんじゃ博士」といったところです。旅先で出会う怪人、オバケ、信じられない自然現象。火山からたこ焼きが降ってきたり、大都会がシンクロナイズドスイミングをしたり、奇想天外な出来事が起こります。本のつくりにも工夫がいっぱいで隅々まで楽しめる一冊です。
 印象に残ったのは、長新太の作品にしては殺伐としたシーンが出てきたことです。いきなり「わたし」がおばさんからナイフを突き出されるというものです。そのあとの「わたし」のせりふが「ナニスルノ、ナニスルノ!」ですからすぐ緊迫感はなくなってしまうのですが。実は「わたし」はいつの間にかチーズになっていたというオチ。 自分自身までのがいとも簡単に変容してしまう。しかもそれを当たり前のことのように許容してしまう。これが長新太ワールドの懐の深さです。