「チュー助大江戸事件帳」(宇佐見興子)

チュー助大江戸事件帳 (ジュニア・ノベルズ (3))

チュー助大江戸事件帳 (ジュニア・ノベルズ (3))

 16才の見習い同心チュー助が、病弱であるという名目で仕事を干されてしまいます。本当は彼の書いた事件の報告書が信用されなかったからです。若者が大人社会から拒絶されたところから物語がはじまるわけです。主なストーリーはこの報告書の内容です。一種の枠物語になっています。江戸を舞台にした人情話です。ところがSF的な話も出てきて、びっくりさせられます。一話ずつ紹介します。

「冷凍つかまつる」
江戸を舞台に医療倫理の問題を描いた異色作です。人体実験のために自分の娘を凍り付けにした医者の動機、父親の真意を知った娘の行動。人間の欲望の底知れなさを感じさせる作品です。

「死に役引き受け人」
必殺仕事人に憧れる若者たちが真似をして、死に役引き受け人というのをはじめます。ようは、依頼人を死んだことにして失踪の手助けをするというものです。ところが最初の依頼人がとんでもない事情を抱えていて……。あんまりものを考えていない若者が軽いノリで大事件に巻き込まれる。でもいったん引き受けた以上は意地を見せるという、盛り上がるストーリーです。

「こうとろう鬼」
おそらく当時の時代背景に大きく影響を受けている作品なのでしょう。山に住む女が事故で自分の子供を死なせてしまい、その悲しみのあまり鬼になってしまいます。彼女は都に下りていってひとりぼっちの子供をさらって一緒に遊ぶようになります。鬼は子供と一緒に遊んでやってものを食べさせてやり、必ず夜になったら家に帰します。そこにつけ込んでわざと自分の子供をさらいやすいように放置する親まで現れます。子供に対する親の気持ち、できれば子供にかまいたいのだけれどそれが許されない事情。建前だけでは成り立たない親子関係の機微を描いています。