追悼・長新太「海のビー玉」

海のビー玉 (平凡社ライブラリー)

海のビー玉 (平凡社ライブラリー)


 エッセイに対談に漫画、長新太のいろいろな面が見られる本です。
 対談の相手は井上洋介河合隼雄井上洋介とともに漫画について熱く語っています。絵本で長新太を知ったわたしにとっては、彼の本質は漫画家であるということは驚きでした。漫画界での彼の評価はどうなのでしょうか。絵本と漫画の両面にわたって本格的な長新太研究が今後出てくることを期待したいです。長新太井上洋介だけでなく、児童文学周辺の画家で漫画出身の人は他にもいますから、児童書と漫画というメディアの親和性は興味深い研究対象になると思います。
 もうひとつの対談、河合隼雄との対談も興味深いです。わたしは河合隼雄は嫌いですが*1、この対談でなされた長新太に対する分析は的を射ていると思います。長新太が地下茎族であるという指摘からはじまり、彼の興味のあり方に鋭くつっこんでいます。
 エッセイや対談もおもしろいですが、この本のメインはなんといっても漫画「怪人シリーズ」でしょう。名探偵がちまたで事件を起こす怪人の謎を追うというのが大まかなストーリーですが、この名探偵がちっとも名探偵らしくなく、全然事件を解決できない。多くの怪人をとりのがしています。挙げ句の果てには自分も怪人と同化してイカになったりてんどんになったりしてみせます。怪人たちは殺人*2も含めてだいぶ世間様に迷惑をかけているので、こんな怪人たちが野放しになっていたらおちおち夜も眠れません。文章で内容を説明しても何の事やらさっぱりわかりませんね。でも漫画を見てもよけいわからなくなるだけです。読者の全く予想のできないところにずらされていく感覚が楽しいんですよ。

*1:小沢牧子派なもので

*2:人間のおしりからあんこを浣腸して殺したり、結構猟奇的です。