「ハチミツドロップス」(草野たき)

ハチミツドロップス
ハチミツドロップス」(草野たき
 中学校の女子ソフトボール部の物語。でも、スポ根要素が全くないのがおもしろいです。5人でだらだらと過ごしているソフト部。このようなゆるゆるな部活を子供達は「ハチミツドロップス」と呼んでいます。「ドロップアウト集団のくせに、部活の甘くておいしいところだけを味わってるやつら」という意味だそうです。
 部長のカズが三年になり、そろそろ新入生の勧誘をはじめようという頃合いから物語がはじまります。新入生勧誘の目標は3人。ただし、絶対に部員が9人以上になるようにしてはならない。なぜなら試合ができるようになってしまうからだと。ところが部員達の思惑はかないませんでした。なんと部長のカズの妹のチカちゃんが、やる気のあるメンバーを集めて集団で入部してきたのです。で、ここからスポ根展開にならないのですよ。部員達はひとりを除いて、みんな幽霊部員になることを選びます。一年生と一緒になってスポーツに打ち込むこともせず、かといってゆるゆるな部の伝統(?)を守るために一年生達と戦うこともしない。彼女たちにとっての楽園だったハチミツドロップスをあっけなく明け渡してしまいます。
 心の支えだったハチミツドロップスを失うことによって、部の面々はいろいろな困難にぶち当たります。家庭の事情、友人関係、男関係。そのあたりは最近のヤングアダルトらしい展開です。
 主人公のカズは辛辣な友人から「だれとでも話をあわせられて、へらへらしてて、軽薄」と評されるような人物でした。よく見れば、周りを深刻にしないように明るくふるまっている健気な子です。でも彼女も、ハチミツドロップスを失って、それまでのやり方ではやっていけないということに気づきます。そう、ハチミツドロップスは一年生に取られなくても、やがて失われるものなんです。子供時代が終わったら、素の自分で勝負しなくてはならなくなります。失われるものへの追悼を美しく切実に描いた成長物語。感動作です。でも、スポ根好きな人には受けないかも。