角川文庫版「夏のこどもたち」(川島誠)

夏のこどもたち (角川文庫)

夏のこどもたち (角川文庫)

笑われたい

 甘栗販売業にはどうしたら就職できるのだろうか?

インステップ

都会から田舎に引っ越してきた小学生が自分のポジションをつかみ取っていく話。初出が教員用の指導書なだけに、ほとんど毒がない作品です。こいうのも書けるんだ。

バトン・パス

 思いがけずリレーの選手に選ばれてしまった少年が主人公。自分を「ふつう」だと規定している主人公が競技に本気になりだんだんと考えを変えていく。川島作品の中では共感しやすいタイプの主人公だと思います。

夏のこどもたち

 わたしは学校内政治陰謀小説が好きだったりします。だから校則問題特別委員会のエピソードなんかは非常に燃えてしまい、生徒会長の江本なんかが非常に好ましく見えたりします。でもそれは、江本の最後の「上と下」発言で全て茶番になってしまうわけですが。
 特にまとまった筋がなく、断片的なエピソードが積み重ねられているこの作品ですが、実はほとんどのエピソードが茶番なんですね。主人公朽木元の抱えている片目であるというわかりやすい欠落も茶番です。彼が犯罪者になるはずだったのに、何かの間違いでヒーローになって表彰されてしまうというのも茶番です。もとを正せば、この作品のスタイル、中学生の自分語りが茶番にならないはずがありません。それについては、語り手である朽木元自身が断っています。
 もちろん、茶番だから悪いということではありません。自分の性的な部分をもてあます中学生の滑稽さを表現するには適したやり方だと思います。
 朽木元による語りは疑ってかかった方がいいのかもしれません。母親による性的虐待という深刻な話も、実は額面通りに受け取る必要はないのかも。中井とも関係も妄想だったり。