「プラネタリウム」(梨屋アリエ)

プラネタリウム

プラネタリウム

 ちょっとだけ不思議なことが起こるけど、ほとんど現実と地続きの東京都世界谷を舞台とする連作短編集。背中にに翼が生えた少年とか、空中に15㎝だけ浮かんでいる少年とかが登場しますが、彼らの感性は今を生きる中学生と変わりません。
 個人的におもしろかったのが第2話の「飛べない翼」です。背中に翼が生えているという秘密を持った少年と30代ニート女性、二人のダメ人間の心温まる交流の物語です。
 主人公の中也くんが見事にある種のダメ人間の思春期を体現しています。実は周囲にバレバレなのに、自分はうまく翼を隠していると思いこんでいるところ。学級委員の女の子が自分を好きだと思いこんでいる被愛妄想の持ち主だということ。そのなのにその女の子に冷淡に振る舞ってしまう、無駄にストイックなところ。こうして挙げてみると、結構おめでたい方のダメ人間のようです。自己イメージと他者からの評価が大きく乖離しているタイプです。いや、端から見ると痛々しい。本当は彼自身も自分の痛々しさにある程度気づいてはいるんです。でもそれを止めることができない、これが思春期の困難なんだと思います。
 他の作品も、思春期の不安定な気持ちと世界谷のささやかな不思議が融和していて、おもしろい作品集になっています。