- 作者: 山中恒
- 出版社/メーカー: 偕成社
- 発売日: 1984/12
- メディア: 単行本
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何が過激かというと、障害者をまったく聖化して描いていないことです。人をねたみも憎みもするし、計算高いところもあるただの人間として描いています。マサルはまったく作者から突き放して描かれ、その意味で他の「健常者」である登場人物と平等に扱われています。
もう一つ過激なところは、自立の描き方です。マサルの自立は、母親を徹底してさげすむことによって成就されます。自立というのは親子間の戦争です。決してきれい事だけで語れるものではありません。親の立場からみれば、子供が自分のことをどう思っているかなんて出来れば知りたくないものです。ここをごまかさずに描いているのがすごい。
また、マサルの自立の契機が、転校生石川タカヒロに対する疑似同性愛的な感情によってもたらされるということもおもしろいです。石川タカヒロは初対面のマサルに「おい、おまえの足、どっちがながくて、どっちがみじかいんだ?」という非常に率直な発言をします。マサルの周囲の人間は、彼の障害をないものとして扱います。そうしないタカヒロの態度に、マサルは「こいつとなら友達になれるかもしれない」という期待を持ちます。障害を持つが故にコミュニケーションを疎外されている実態。だからこそ障害者が切実にコミュニケーションを欲求していることがわかります。
ようするに、この作品は障害者、そして親子関係といった神格化されがちなものから、いっさいの美化を排除していることがおもしろいのです。保守的で事なかれ主義な人間にとっては恐るべきリアリズムだといっていいかもしれません。