「六年四組ズッコケ一家」(山中恒)

六年四組ズッコケ一家 (山中恒よみもの文庫)

六年四組ズッコケ一家 (山中恒よみもの文庫)

 48人学級の6年4組の4班はズッコケ一家というあだ名を付けられています。そのメンバー12人のズッコケっぷりのすさまじいこと、これを読んだらもはやズッコケ三人組なんかどこがズッコケているのかわからなくなるくらいです。一章に一人ずつそのメンバーが紹介されていく形式になっています。彼らの無軌道さは軽度の発達障害なんて言葉で片づけられる程度のものではありません。それが12人も!しかも48人学級!担任の先生の苦労がしのばれます。
 おそろしいのは、この物語が全くのギャグでしかないということです。これだけかわいそうな子供たちが登場して、教訓も何もあったもんじゃない。笑いものにしているだけです。差別的ギャグと糾弾されても仕方ないくらいです。おもしろさ一点突破でこれだけの作品を出すには、相当な覚悟が必要だったと思われます。以下一名ずつ簡単なコメントを。

ワスレノスケ

 名前の通りとにかくものを覚えていられない子です。物忘れのために自分が損をしたことすら覚えていられませんから、ある意味幸せなのかもしれません。

ナニセナキエ

 泣き虫の上にしつこいという欠点を持っています。この2つの合わせ技がいかにたちが悪いか。ぜひとも関わりを持ちたくないタイプの子です。

シラケゴンパチ

 とにかくしらけている。しかもそのしらけが周囲に伝染してしまう。使いようによっては役に立つ人間です。彼を敵側に送り込めば、相手は戦意を喪失してしまいますから。その特性を利用して誕生パーティーをぶちこわしたオセッカイサマは、なかなかの策士といえましょう。

ミスパリ

 意地っ張りの「パリ」があだ名の由来です。けんかをして校長先生に「女らしくしろ」と怒られたら、きっちりとした和装をしてきて反抗する。敵にまわさなければ見ていて愉快な子なんですが。先生方はさぞや手を焼いたことでしょう。

マンカラ

 千三つよりひどい「万しゃべってほんとうのことがひとつもない」マンカラ。こいつの嘘は手が込んでいて悪意があるとしか思えません。その迷惑さが端から見ると非常に愉快です。
 作家の吉村萬壱はきっとマンカラにあやかってペンネームをつけたんだと思われます。

オテンポ

 テンポが遅いのでオテンポ。そのうえ、幽霊を棒でつつきたいなんていう変な願望を持っています。天然ボケに加えてサイコ系まではいっているとことんやっかいな子です。

ハッタリオバケ

 悪い男子にだまされて羽目を外しすぎたかわいそうな転校生。独自のギャグセンスがすべりまくっているのが痛々しいです。

ソッパン

 そそっかしいのでソッパン。粗忽者は昔から笑いの種にされていますから、名人山中恒の料理の仕方を堪能すればOKです。いまだったらADHDとかのレッテルを貼られるかも。

ミスターチョイノ

 おっちょこちょいのチョイノ。豚もおだてりゃ木に登るを地でいく子です。

オセッカイサマ

 ズッコケ一家の中で私が一番関わり合いになりたくないのはこの子です。お節介を掛けて人に迷惑を掛けまくる。しかも本人は善意のつもりでやっているところがやっかいです。「アサガオさんは姿勢が悪い」からといって、朝顔のツルを解いて石を乗せてまっすぐにしてあげたという逸話をみれば、いかに質の悪い子かがわかるでしょう。

ソコニイタイナイ

 歯が欠けているため、発音が不明瞭な子です。ですから自分の名前「乾」というと、「イナイ」と聞こえてしまいます。危険が迫ったときに「乾!」と叫んで自己主張すると、「イナイ」と取られてしまう。自己主張が自分の存在の否定になってしまうという実存的な困難を抱えています。作者にすら存在を忘れ去られてしまったかわいそうな子です。

キキミミズキンチャン

 情報のエキスパート。情報を武器に大人をきりきり舞いさせるさまは痛快です。携帯電話もインターネットもない時代に足だけを頼りに情報収集する根性には頭が下がります。