「こぶたのかくれんぼ」(小沢正)

こぶたのかくれんぼ (ポプラ社文庫 A 129)

こぶたのかくれんぼ (ポプラ社文庫 A 129)

あらすじ(ネタバレ配慮無し)

 5人兄弟のこぶたは、あまりにもそっくりなので、お母さんから名前を付けてもらえませんでした。ある日怖いおおかみのいる森に行ったこぶたたち。帰りに点呼を取ってみると一匹足りません(実は自分を数に入れていなかったため)。こぶたたちはおおかみが一匹食べたものだと思いこみ、おおかみを責め立てます。たまらなくなったおおかみはきつねのおじさんに「こぶたにかわるビスケット」をもらい、こぶたに化けて兄弟の中に紛れ込みます。家に帰ったこぶたたち。今度は一匹多いことに気がついて大騒ぎになります。今度はきつねが「こぶたにかわったおおかみをもとにもどすビスケット」を使っておおかみをあぶり出そうとしますが、実はそれは「こぶたをおおかみにかえるビスケット」でした。ということで、おおかみになったこぶたは家を出て、こぶたになったおおかみが平然とこぶたの兄弟とともに暮らすことになります。

 幼年向けの作品でこんな実存的な疑問をテーマにする小沢正に脱帽です。こぶたたちは名前を与えられないことで、あらかじめアイデンティティを奪われています(考えてみればひどい児童虐待だな、これは)。でもそんなことすら些末な問題。こぶたとして規定されればこぶたになるし、おおかみとして規定されればおおかみになってしまう。別にそれでなんも不都合なことはないじゃないかと。端的に言えば「個人」というものに対する懐疑。幼児にこんなものを読ませるなんて小沢正は本当に危険な作家です。