「魔女の宅急便」(角野栄子)

魔女の宅急便 (福音館文庫 物語)

魔女の宅急便 (福音館文庫 物語)

 原作って言葉使うのやめにしませんか?ジブリの映画は確かに悪くはない出来でした。でも、これだけの名作が映画のおまけのように語られるのはもったいなさすぎます。いずれは「誰もが知っているけど、誰も読んだことがない名作」に堕落しかねません。
 この作品の良さは、主人公が魔女であることの必然性をきちんと持っていることです。キキの立場は魔女というより、失われつつある伝統技術の継承者のようです。そして、魔女であるためには血筋が必要であることがしつこく説かれています。要は、背景に差別の暗い影を抱えているのです。
 そしてひとりコリコの町に旅立ったキキは完全によそ者として扱われます*1。「魔女の宅急便」は世界の外側にいる人間が世界の中に入っていく物語と読み解くことができます。簡単に言えば思春期の子供が社会の中に入っていく自立物語です。そのため、彼女が魔女であり差別を受けているという設定は、まだ社会に受け入れられていない子供の立場を描くための必然性のある設定であるといえます。
 「魔女の宅急便」は思春期小説の傑作です。本番はキキが本格的に色ボケする三巻からですが、一巻の時点ですでに届け物のラブレターを盗み見たりするはずかしい行動を取っています。
 さらにメルヘンとしてのおもしろさもずば抜けています。特に視覚的イメージを喚起する物語の見せ方がうまい。ほうきで空を飛べるというキキの特技を生かしきっています。お散歩方式とか、洗濯物をほうきでつり下げる場面とか、走行中の列車に飛び移る場面とか。どれも映画向けなのに、どうして宮崎駿はこれらの場面を映像化しなかったのか不思議になります。でも、文章だけで充分完結しているのですから、あえて映像化する意味はないのかもしれません。ほうきにぶら下げられたラッパが音楽を奏でる場面なんかは忘れられません。

ディズニーによる映画化

 ディズニーが「魔女の宅急便」の映画化を画策しているらしいですね。不思議なこともあるものです。やつらは日本の作品には著作権はないと思っていんじゃなかったの?ジャングル大帝をパクったり、ナディアをパクったり。ちゃんと筋を通すなんて珍しい。むしろしらばっくれて勝手に作ってもらって、公開されてからパクリ疑惑が出て騒ぎになる方が、ネタとしてはおもしろいんですけど。

*1:町長から汚れ仕事(泥棒)を命じられたり、ひどい迫害を受けてもいます。