「密着!縄文4000年ツアー」(さがらあつこ)

密着!縄文4000年ツアー―マイタウン取材日記 (講談社 青い鳥文庫)

密着!縄文4000年ツアー―マイタウン取材日記 (講談社 青い鳥文庫)

 ふじみ町三丁目の空き地から遺跡が発見された、自称ジャーナリストのママは、遺跡発掘に関わる怪しい教授、時野教授がタイムスリップしていることを知ります。そして、タイムスリップの方法を突き止め、ひとり縄文時代に旅立ちます。ママを追って子供達も縄文時代に向かいますが……。
 燃え上がれ探求心!縄文土器縄文時代に関する色々な説をわかりやすく紹介し、古代の謎を探るロマンに導いてくれる良作です。考古学に必要なのはイマジネーションだという主張にも納得。その点では学者のいうことも小学生の思いつきも等価です。土偶は女性を表しているなんて通説に縛られていてはいけません。だって冷静に考えればあれ、全然女性の形に見えません。固定観念に縛られず自由に想像力を持つことが考古学者の資質なのでしょう。
 ただし実際は証拠を集めて仮説を検証する地道な作業が主になりますから、イマジネーションと探求心とねばり強さがなければ考古学はできません。
 しかしまじめなSFファンはこの作品に怒り出すかもしれません。タイムパラドックスをまったく意に介していませんから。
 ママは縄文時代で疫病がはやると、現代からクスリを持ってきて与えてしまいます。そのほかも文明の利器を縄文時代に持ち込み、はては縄文人を現代に留学させると言い出します。なのに、現代にはほとんど影響を与えていません。ママが持ち込んだものが遺跡から発掘されるだけです*1。クスリのおがげで死ぬはずだった人がみんな長生きしてしまうんですから、現代には重大な影響が出るはずです。それを無視する力業にはうなるしかありません。
 探求心のままに動き、目の前に困っている人がいると放っておけないママのキャラクターはまあまあ魅力的なんですが。いや、このママの強烈なパワーのおかげで、タイムパラドックス無視なんていう荒技が可能になったのかもしれません。

*1:ここで、文明の利器が出土するたびに、タイムスリップを信じない堅物の調査員が頭を抱えるというお約束ができます。このお約束のおかげで作品がコメディとして成立しているので、SFとして破綻していようとわたしは本作を肯定します。