「ぼくらのケータイ3days」(さとうまきこ)

 さとうまきこの若さにはいつも感心させられます。その時代時代の子供のリアルを捉えるのがずば抜けてうまい。ちょっと前まではオカルトネタを使う事が多かったですが、それはあくまで子供のリアルな気分を導くためのツールで、描いていたのは厳然とした現実でした。最近は子供の居場所としてコンビニに注目したり、私小説風の援助交際ものまで書いてみたり、圧倒的なアンテナの高さを誇っています。
 本作の主役は携帯電話です。拾ったケータイに脅迫のメールが送られてきた。一体持ち主は誰でどんな状況に陥っているのか?ケータイにクラスメートの電話番号が入っているのはなぜか?こんな謎が物語を引っ張って、ミステリータッチに進みます。 
 小学生にとって携帯電話は手が届きそうで届かないもので、もし手には入ったらすごいことが起こりそうで実はたいしたことがない。持っていない子にとってはけっこうな夢アイテムなんだろうと思います。そんなケータイを偶然拾ってしまたことによるワクワク感が感じられる導入は見事です。
 主人公は「4つの初めての物語」の「はじめてのパクチャリ」に登場した省吾と雄介です。「はじめてのパクチャリ」にはこんな感想を書いていました。

問題作は第3話の「はじめてのパクチャリ」でしょう。自転車泥棒にほとんど罪悪感がないのも問題です。それ以上に男の子同士の友情の描き方です。親友には見えません。端から見れば2人の関係は主従関係です。悪いことをしようと誘われても断れないで、相手の気まぐれに振り回される。閉塞してて救いがない話です。でもこれがある種の小学生の現状であることは確かです。
児童書読書日記

 本作でも基本的にこの関係は変わっていません。そしてケータイをめぐる事件も鬱展開を見せます。でも、省吾はこの状況を嫌に思っているだけではないのです。雄介に支配され、希望の持てない未来を抱えつつも、ささやかな希望を持っています。
 事件がクライマックスにさしかかっているのに片思いのクラスメイトと一緒に行動できることに喜んでいるような省吾のいいかげんさ、このあたりが今の子供のリアルな気分をうまく捉えていると思います。