「フルーツドロップ」(あかね・るつ)

フルーツドロップ (ピース・セレクション)

フルーツドロップ (ピース・セレクション)

 現代の子供達にいかに戦争の実態を伝えるか……。戦争の記憶の風化とともに、児童文学に課せられたこの課題はますます重みを増していきます。そのためのひとつの方法論として有効なのが、本作のようにミステリ的に謎をばらまき、興味を引くというやり方です。
 駅前で靴磨きを続けるおハルばあさんの正体はいかに。駅前の噴水広場で突然妊婦が産気づくという事件が起きました。おハルばあさんは彼女を助け、無事出産させますが、そのとき、「せっかく生まれてくる命や。今度こそ、しっかり命の受け止めな。そうやないと、うちは、また罪を重ねてしまうんや」と意味深長なせりふを吐きます。その罪とはなんなのか。おハルばあさんの名字、出身が明かされないことなどをたどっていけば、自ずと真相にたどり着きます。
 主人公の佳奈は親に捨てられ祖父母の元で生活しています。そんな彼女は自分が歓迎されて生まれてきた子供なのか疑問を持っていました。こういう身近な話題から戦争の問題にリンクさせていき、今の子が共感しやすいようにする工夫もなされています。
 先の戦争で行われたことを、「神話ごっこ」と直截な言葉で批評していること。そして、「神話ごっこ」に荷担したおハルばあさんの加害責任を明確に描いていること。これらの要素は反戦ものとして非常にインパクトが強く、なかなかの力作に感じました。