「走れ、セナ!」(香坂直)

走れ、セナ!

走れ、セナ!

 第45回講談社児童文学新人賞の佳作になった作品です。こちらは勝手に「陸上ものだー。川島誠の再来か?」というテンションになっていたのに、中を見るとこてこてのガールズトーク。すいません、少女小説だったらそれっぽい装幀にしておいてください。こちらにも心の準備というものがありますので。
 小学4年生のセナは、担任が「新しい発見がある」とかいってくじ引きによる班決めを強行したために、最悪の班になってしまいます。男子はチビデブコンビ、女子はガリ勉の暗い感じの子。序盤はセナがこの班決めが嫌でうだうだ言っているだけであまり面白くありません。でも、セナの所属する小学校の陸上部が突然廃部になったところからスポ根展開を見せ面白くなってきます。頼りなかった担任が顧問を引き受け、経験はないのに本を読んで練習法を勉強したり、変装してライバルのスポーツクラブにスパイにいったりして、意外といい先生だったところを見せてくれます。そしてスポ根もののお約束として、新生陸上部はなかなか部員が集まらず正式な部と認められません。ここでだれが部員になるかはもうおわかりでしょう。結局担任の思惑通り、「新しい発見」があってめでたしめでたしになります。
 王道のスポ根としてそれなりに楽しめる作品でした。陸上部内で俳句がはやるなんていくくすぐりにも笑わせてもらいました。
 テーマもわかりやすくていいです。印象に残ったのは、主人公のセナがあまりにバカなふつうの女の子として描かれていることです。つまり、陸上のうまい子に対しては無邪気に憧れを持ち、クラスで浮いている子に対しては無邪気に侮るというような性質です。この子供らしい残酷さを主人公に持たせたことで、「新しい発見」というテーマが明快にされています。