「神さまの住む町」(楠章子)

神さまの住む町 (わくわく読み物コレクション)

神さまの住む町 (わくわく読み物コレクション)

 大阪の下町が舞台の短編集。あとがきによると「ぬくもり」があり、「人情」が残っていた自分の子供時代を描いたそうです。
 4編のうち後の3編は確かにそうです。家出した近所の兄ちゃんを探しに行く話とか、神さまがちょっとした騒動を起こしてつぶれかけたお風呂屋さんを励ます話とか、ほのぼのと和める話でした。
 ところが最初の「つゆ空とおばあちゃん神さま」だけ毛色が違っています。一言でいうとよそ者の新任小学校教師をみんなでよってたかっていじめる話です。それで「先生は、この町のええとこ知らんのやろね」なんてぬかすのですよ。みんなに迫害されているのにそんなものわかるわけがありません。下町の人情こええ〜。
 いや、この作品をけなしているわけではありません。よそ者を排除せずにはいられない密接な地域社会の暗黒面をきちんと描いているし、地域とよそ者、子供と大人のすれ違いのさまがリアルに描かれていて非常に迫力がありました。
 ただわたしにはこの作中に、地域社会の閉鎖性に対する批判的な視点が読みとれませんでした。これを作者は天然でやっているのか、策略でやっているのか。どっちにしてもものすごい怖さを感じてしまいました。