- 作者: 森忠明,狩野富貴子
- 出版社/メーカー: 小峰書店
- 発売日: 1997/12/01
- メディア: 単行本
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今年、一九五八年の四月からこっちは、ずうっと金かん食みたいな、うす暗い気分だった。
生まれて十年もすると、いろんな苦労がどっとおしよせてくるらしい。
冒頭からこの重苦しさ、これは森忠明にしかできない芸当です。
本作も「森忠明」少年を主人公とした自伝とも私小説ともつかない作品群の一つです。この人も読者を選ぶタイプの作家で、はまる人ははまるけど、あわない人にはどこがいいんだかまったく理解できない作品をものしています。もう少し内容を引用します。
両親が別居したり、おかあちゃんがじんぞう病になったり、川島のおばちゃんが死んじゃったり、ろくなことがなかった一九五八(昭和三十三)年。
ぼくが生まれた昭和二十三年からこっち、楽しい、生まれてよかったと思えたのは、保育園の一時期だけであとはだいたい金かん食の日の暗さと変な寒さをまぜたみたいな、いやな思い出しかない。
開始たったの三ページでここまで鬱な文章を見せられます。あわない人は早めに本を閉じて、別の本を読む方が賢明でしょう。
なぜか自分をかわいがってくれる隣の川島のおばちゃんからもらった日記帳に森忠行少年が書きつづったのが本書の内容です。ろくなことが全くない10才ライフを満喫できます。
まずは、学校でプールがはじまるというんで鬱になる。溺れて死ぬかもしれないし、自分のやせた体をみんなに見られるのも嫌だと。こんな感じで全編鬱々です。なのに何でこんなにおもしろいんだろう。たぶん森忠行が、子供時代に多くの人が感じたなにかつきささるものを大事に保存していて、それを繊細に表現しているからなのだと思います。