「勉強してはいけません」(横田順彌)

勉強してはいけません! (講談社青い鳥文庫)

勉強してはいけません! (講談社青い鳥文庫)

 新作ではなくて、ペップ21世紀ライブラリーの「宿題のない国緑町3丁目」を改題したものですね。大幅に加筆修正されているので、前の版を既読のかたでも楽しめると思います。ペップ21世紀ライブラリーは、そうそうたるSF作家が名を連ねていた貴重な叢書でしたので、こういうかたちで復刊されるのは喜ばしいことです。次はかんべむさしの「ざぶとん太郎空をゆく」をお願いしたい。さらにヨコジュンの作品だったら、ポエムくんもどうにかしてもらいたい。
 内容は、小学生の進太郎くんが偶然パラレルワールドに迷い込んでしまうというもの。そこでパラレルワールドの自分である孝太郎と、プライドとアイデンティティの全てをかけた壮絶なだじゃれバトルを繰り広げます……と書いても、あながちウソとはいえませんよね。ヨコジュンだし。だじゃれパートも大幅に強化されているようなので、ひさしくハチャハチャSFに飢えていたオールドファンは必見です。「山のシャチ」とか、懐かしいネタも入っていました。
 本当は発狂したコンピュータが支配する世界の話です。P-コンピュータという世界を支配するスーパーコンピュータは、自分を開発した江地尊介博士が本につぶされて記憶喪失になったのを逆恨みして、人間に勉強することを禁じてしまいます。パラレルワールドでの進太郎の両親は、P-コンピュータに抵抗して秘密勉強団をつくり、密かに子供に勉強を教えていました。しかし母親が強制収容所に捕らえられてしまったため、秘密勉強団は救出計画を立てます。進太郎も彼らに協力することになります。
 「宿題のない国緑町3丁目」との違いは、ロボポリスがアンドロポリスになっていたり、孝多郎が孝太郎になっていたり、江地尊介博士が本につぶされて死んだのではなく、記憶喪失になっただけになっていたりと細かい部分で、大まかなストーリーラインは変わっていません。まず、パラレルワールドには月が二つあるということで読者の度肝をぬき、価値観が転倒した世界を見せることで、考え方の枠を広げさせる。子供にSFのおもしろさを伝える作品としては最適です。
 ラストでは、続編を期待させるような描写もありました。青い鳥文庫でハチャハチャのヨコジュンが復活するのだとしたら、こんなにうれしいことはありません。