「TOKYOステーション・キッド」(森下真理)

TOKYOステーション・キッド (文学の森)

TOKYOステーション・キッド (文学の森)

 「駅おたく」の少年が、東京駅を舞台にいろいろな人間模様にふれていく短編集。東京駅が時間と空間を超えた出会いを演出する舞台としてダイナミックに機能しています。
 それぞれの短編で取り上げられた題材を見ると、戦争、朝鮮人差別、盲導犬、日光に当たれない病気(色素性乾皮症か?)、交通事故と、なかなかセンセーショナルなものをもりだくさんに詰め込んでいます。いつものこのブログの論調だと、「安易にあざとい飛び道具ばかり使いやがって」とけなすところですが、今回は判断を保留したい。本作にはその手の作品にありがちないやみさがあまり感じられなかったからです。
 情念に訴える表現もあるのですが、登場人物を突き放して描いている面もある。おそらくそのあたりのさじ加減が絶妙にうまいのだと思います。非常に読みごたえのある短編集でした。