「だけどぼくは海を見た」(佐野美津男)

だけどぼくは海を見た (創作子どもSF全集 17)

だけどぼくは海を見た (創作子どもSF全集 17)

 「ピカピカのぎろちょん」のおかげですっかり佐野美津男にはまってしまいました。この作品もぎろちょんと同じく、佐野美津男中村宏のコンビです。しかしこの本が入っている国土社の「創作子どもSF全集」がものすごいラインアップですね。ざっと目に付くだけでもSF畑の人間で豊田有恒福島正実光瀬龍今日泊亜蘭。児童文学作家で小沢正、大石真、三田村信行砂田弘。なんて贅沢なメンバーなんだ。
 「だけどぼくは海を見た」は、ある朝目を覚ますと家の周りが一面の海になっていてイルカが泳ぎ回っていたという、これまた不条理系のお話です。この状況に一応SF的な解答も提示されますが、これもぶっとんでいて面白いです。
 日常への執着と、非日常への憧れと恐怖。急激な環境の変化に主人公はこんな感慨を抱きます。

海はあまりにも美しすぎて、宏幸まで、ふしぎだというかんじをわすれかけさせていた。だけどは、何が何でも不思議だと思いこみたかった。は心のなかで、
「負けてたまるか」
と、さけんでみた。それでも海は、きえることもなく、窓の外に青くひろびろとしていたのだった。