「はなはなみんみ物語」(わたりむつこ)

はなはなみんみ物語 (ソフト版 はなはなみんみ物語)

はなはなみんみ物語 (ソフト版 はなはなみんみ物語)

はなはなみんみ物語 (はなはなみんみ物語 (1))

はなはなみんみ物語 (はなはなみんみ物語 (1))

 2005年11月にソフトカバー版が出ました。80年代を代表するファンタジーですから、ぜひ新規読者を獲得してもらいたいと思います。
 はなはなとみんみは双子の小人さんです。森の木のうろの中で、お父さんのたけび、お母さんのひいな、白ひげじいさんと五人で暮らしています。魔法を使う愉快な小人と森の動物たちが繰り広げる楽しい冒険を描いたほのぼのファンタジーです。
(以下ネタバレ)



 嘘ですけど。初読の人には先入観を持たないで読んでもらいたいですね。外見と中身がこれほどちがう本も珍しいですから。実態は最終戦争後の荒廃した世界で、残された仲間を捜すというハードな話です。作中には空を飛ぶ魔法、水の中をくぐる魔法、ものを遠くに投げる魔法が登場しますが、どれも軍事利用されたため、白ひげじいさんはそれを封印してしまいます。ある日北の森に生き残りの小人がいるとの情報が飛び込んだので、白ひげじいさんは空中とびの魔法をみんなに教え、捜索の旅に出ることにしました。元空中小人隊の兵士だった白ひげじいさんの知っている魔法は空中とびだけ。このあと次々と昔の魔法がよみがえっていくことになります。
 魔法をロストテクノロジーと呼べば、この話はそのまんまSFになってしまいます。テーマはテクノロジーと倫理の問題。技術自体にはなんの罪もありません。しかしそれを使用する人間によって、いくらでも悪用することができます。その一番極端なかたちが兵器としての利用です。
 白ひげじいさんは技術自体に罪がないことを知りつつも、かつてのあやまちを繰り返さないために、魔法を封印してしまいます。しかし、戦争時代子供だったたけびとひいなの世代、そして戦争を知らないこどもたちであるはなはなとみんみは、そのあたりに屈託がありません。このあたりは、現実の戦争を知っている世代と知らない世代の断絶を反映しているのでしょう。結局小人たちの脅威となる外敵、羊びとが現れたため、「専守防衛ならいいじゃん」ということになり、小人大戦争で使われた爆弾いかり草を復活させることになります。そして戦争責任のある世代の白ひげじいさんが神風アタックをしてとりあえずの危険からは脱します。テーマがテーマだけに後味はよくありません。そのとき使われたいかり草は処分され、「これからは、いかり草があったことさえ知らない時代がやってくるだろう」と一応希望を持った終わり方になっています。でも、現実に武装放棄をすることがどれだけ難しいかを考えたら、先が思いやられます。 結局技術をどう使うかは人間次第ですから、人間に信頼をもてるかもてないかの問題になってしまいます。
 残された仲間を集めて崩壊した小人の国を再興させることを誓い、一巻は終了。一流の冒険物語で、しかも深いテーマ性を持っている傑作です。