「赤い鳥の国へ」(リンドグレーン)

赤い鳥の国へ

赤い鳥の国へ

 リンドグレーンといえば、「長くつ下のピッピ」や「カールソン」など心楽しい作品がまず思い浮かびますが、そういうのを期待してこの作品を読むとひどい目にあいます。リンドグレーンの暗黒面が結集された傑作がこれ。愉快な話を書くのがうまい人は鬱話もうまいわけで、名人というのは本当に恐ろしいものだと思います。
 みなしごの幼い兄妹マティアスとアンナは、農場に引き取られこき使われています。つらい日々を二人は「灰色」と表現していました。でも、冬になると学校へ通えるということを楽しみになんとか耐えていたのです。ところが冬になり学校へ通えることになっても、期待していたような楽しい日々はきませんでした。貧しい弁当をからかわれたり、つらい目にばかりあいます。アンナはこうつぶやきます。

マティアス、学校も灰色だったね。わたしには、楽しいことなんて、もうなんにもない。春まで生きていたくないわ。

 そんな時二人の前に燃えるように赤い鳥が姿を現します。その鳥を追って白い森にはいると、大きなへいが現れました。へいには開いた入口の扉があります。その扉を開けると、おだやかな緑の草原が広がっており、大勢の子供達が楽しそうに遊んでいました。そのはミナミノハラという楽園でした。二人はそこで楽しく遊び、「みんなのお母さん」においしいものを食べさせてもらいます。
 二人がへいの扉から戻ろうとする時、扉が半開きのままであることに気づきます。アンナがそのことを尋ねると子供達がこう答えました。

この扉は一度しまったら、二度とあかないんだ。

 さあ、あからさまな伏線が出てきました。こう言われればこの扉、閉めないわけにはいきません。問題は、誰がどっちの側から閉めるかということです。で、あの結末はどう考えてもバッドエンドですよね。
 ミナミノハラを出た二人は、いろんなものを食べたはずなのに自分たちのおなかがぺこぺこなことに気づきます。ここで読者は、ミナミノハラが幻の楽園でしかないという残酷な現実をいやでも知らされてしまいます。
 厳しい現実と幻の楽園の美しさのコントラストを描くリンドグレーンの筆力がすさまじすぎるので、あくまで淡々としたラストの悲劇が際立っています。 マリット・テルンクヴィストのイラストも、「灰色」の現実と色彩に満ちた楽園を繊細に描いていてすばらしいです。