「さよなら地底人」(高科正信)

さよなら地底人

さよなら地底人

 もしかしたらこの作品は2005年最大の収穫かもしれません。小学二年生の万寿の絵日記という設定の本なのですが、絵が荒井良二なのでこの設定に全く無理がありません。加えて高科正信が綴るものがたりのメインは、万寿が小学5年生の兄千福や友達の陽子ちゃんに騙されるというもの。千福兄ちゃんはレストランのコックを見て「地底人だ」と教えたり、あろうことかおじいちゃんまで「地底人」だと断定します。それにいたいけな万寿はおもしろいように引っかかってくれます。 
 千福兄ちゃんの話はたちの悪いことに、まったくの嘘というわけではありません。ときどきものすごく本質をついたことを言ったりします。たとえば天国の場所についての問答では、「天国は空の上にもあるけど、山のむこうにも海のむこうにもある」と意味深長なことを言います。かと思うと、万寿が天国へ行く方法について聞くと今度はあっさり、「車」とわけのわからないことを言います。
 一方万寿もただ騙されているだけではありません。千福の嘘から想像を広げ、さらにものすごいものを想像してしまいます。たとえば地底人のことをこんな感じに想像します。

地底人は、さつまいものようなからだに手足がついている。頭のさきっちょはとんがっていて、ねっこみたいなのがひょろんとついている。
地底人の大こうぶつはコロッケや。毎日温泉につかり、そのあと、コロッケを食べる。

 考えてみれば不思議なことですが、サンタクロースという事例に典型的なように、人間にはお子チャマを騙して喜ぶ習性があるようです。その理由のひとつがこの話で明かされているように思います。つまり、騙す側と騙される側の想像力がおたがいを増幅しあって、とんでもなくぶっとんだものを想像してしまう。こういった効果を期待して人はお子チャマを騙すのではないでしょうか。
 とにかく想像力のぶっとび具合を堪能するのがこの本の楽しみ方だと思います。たとえるならいがらしみきおの「ぼのぼの」のような感じです。お子チャマの突拍子もない発想を見事に表現して見せた高科正信と荒井良二に脱帽です。