「おばけ桃が行く」(ロアルド・ダール)

おばけ桃が行く (ロアルド・ダールコレクション 1)

おばけ桃が行く (ロアルド・ダールコレクション 1)

 主人公のジェイムズは、4才までは両親と幸せな日々を暮らしていました。ところが両親がロンドン動物園から脱走した犀に食い殺されてしまったため、ふたりのいじわるな叔母に引き取られ丘の上の家で暮らすことになります。そこでも暮らしはほぼ軟禁状態で、まったく自由のないものでした。ある日ジェイムズは、怪しげな男から魔法の薬をもらいます。ところがジェイムズはその薬を桃の古木の下にぶちまけてしまいます。すると木に巨大な桃の実がなりました。叔母たちはこの桃を見せ物にして一儲けしようとたくらみます。またも叔母たちにいじめられたジェイムズは小さな穴から桃の内部に入り込みます。すると中には、桃と一緒に巨大化した虫たちがいました。彼らは快くジェイムズを迎え、桃を転がしてこの丘から脱出しようと持ちかけます。転がった桃は二人の叔母を轢き殺し、ひろい世界に旅立っていきます。
 この序盤で4人もの人間が残酷な死に方をします。叔母は因果応報としても、犀に食べられた両親のバカバカしくもかわいそうなこと。ダールの意地の悪さが発揮されています。
 虐げられた男の子にとって暖かくて食べ物に恵まれた桃の内部は理想的な逃避場所になっています。一種の体内回帰願望だとまでいってしまうと考えすぎでしょうか。
 ジェイムズの機知と虫たちの能力で、桃は思いがけない運命を迎えることになります。まさか飛行能力まで得るとは。奇想天外な筋運びと、 虐げられた少年と嫌われ桃の虫たちが大冒険をし成功を収めるという王道の願望充足ストーリー。ダールのうまさがよく出ている作品です。