- 作者: さねとうあきら,井上洋介
- 出版社/メーカー: 理論社
- 発売日: 2006/01
- メディア: 単行本
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人間の娘が異界のものと出会う話が三編収められています。第一話の「ゆきんこ十二郎」はさねとうあきらにしてはめずらしい勧善懲悪もので安心して読めます。しかしあとの二編、「おにひめさま」と「ベッカンコおに」では、娘は最終的に鬼になってしまいます。
「ゆきんこ十二郎」は、雪おんなさまの末っ子で雪を降らせるのが下手な十二郎が、はじめて自分の雪をほめてくれた少女ミネのために奮闘する話です。十二郎はミネのために長者の家から米を盗んできますが、米がミネの家までこぼれてしまったため、ミネは泥棒呼ばわりされ、人買いに売られてしまいます。十二郎の話を聞いて激怒した雪おんなさまは、吹雪で長者と人買いを吹き飛ばして、めでたしめでたし。語り口調の文体も優しく、子供に安心して読み聞かせてあげられます。
「おにひめさま」にはまったく救いがありません。婚礼のために旅をしている姫は、雪山で鬼におそわれひとり遭難してしまいます。親切なじじとばばに助けられますが、姫はふたりが鬼ではないかという疑いにとらわれ、包丁で二人を殺害してしまいます。人間は生きながらに鬼になれます。角が生えてほんとうの鬼になってからも姫はまったく反省することがなく、大臣の元にお嫁に行くことだけを考えています。髪をすきながら角がなくならないことを嘆く姫の姿が哀れです。
最後の話、「ベッカンコおに」はさねとう民話の中でも最高傑作だと思います。おそらく異類婚姻譚でこれ以上の作品はこの先出てくることはないでしょう。顔が醜いためにバカにされている鬼と、盲目で迫害されている少女ユキのあいだに生まれる不思議な絆の物語。鬼は悪であり醜いことも悪いことであるいう価値観がダイナミックに破壊される展開は読ませます。