「ハリスおばさんパリへ行く」(ポール・ギャリコ)

ハリスおばさんパリへ行く (fukkan.com)

ハリスおばさんパリへ行く (fukkan.com)

 ロンドンのお手づたいのおばさんが、身の程知らずにもディオールのドレスに憧れてしまい、はるばるパリに買いに行く顛末を描いた作品。
 ハリスおばさんはドレスのために地道に節約をしたり、そうかと思うとドッグレースに大金をつぎ込んで一発勝負に出たり、涙ぐましいがんばりを見せてくれます。
 しかしディオールのドレスはお金さえあれば買えるような甘いものではなかったんですね。ディオールの店で門前払いをくらそうになりますが、そこはおばさんの人間力でなんとか事を運ぶ。おとぎ話といってはそれまでですが、心温まるいいお話でした。
 なんといってもハリスおばさんのキャラクターがいい。彼女は決して聖人君子といえるような立派な人間ではありません。どっちかというと俗人です。でも、俗人であるがゆえの率直さ、飾らない優しさが魅力になっています。その魅力が周りの人間を巻き込み、いつの間にか幸せを運んでくれると。
 お話としてはできすぎです。なのにそれがまったく欠点に感じられない。これがポール・ギャリコのすごさなのでしょう。