「ふつうの学校② ブラジャー盗難事件の巻」(蘇部健一)

 「ブラジャー盗難事件」ですよ。このタイトルは小学生にはハードルが高すぎませんか。小学生ですから世間での蘇部健一に対する評価も知らないでしょう。「自分はあえてソブケンの本を読む選ばれた読者なんだ」と自分にいいわけをすることもできません。「自分はブラジャー盗難事件に興味がある者でござい」という開き直りをするのは難しいと思います。
 それにいくら興味があっても、親にこの本を買ってくれとはいえそうにありません。そして間違っても親が進んで子供に買い与えることなどなさそうです。どう考えても売れないだろ。わざとこんなタイトルを付けて売れないようにしようという、蘇部健一自虐趣味のあらわれなのでしょうか。
 蘇部健一は一般向けの作品(特に「六とん」)に関しては色々いわれていますが、ふつうの学校はいいシリーズだと思います。終局の「ブラジャー盗難事件」に向かっての伏線のはり方、構成はすばらしいです。アキラくんがアヤノちゃんフラグを立てたんじゃないかと、読者にさんざん期待させておいて見事に落とす。それでこそ「ふつうの学校」。前の事件で活躍した主事さんとT・Jにも役割を与え、最後の事件をきれいにまとめています。
 そしてそして、その最終章「ブラジャー盗難事件」もあのお約束の悲惨なエピローグへの前ふりになっています。こんなくだらないオチのためにこれだけの物語を積み上げるとは、なんとも無駄な努力です。でも、せっかく積み上げたものをこわさずにはいられないダメさこそが、蘇部健一の魅力なのです。