「マルギットの首飾り」(那須正幹)

 今回は怪盗が登場します。それもロボットグモを操る怪盗土蜘蛛。このロボットグモ、どんな警戒厳重なところにでも入り込み、催眠ガスを発射して警備の人間を無力化するという優れものです。いや、すごい。江戸川乱歩に匹敵するくらい(いい意味で)バカです。こういうバカさがミステリの魅力なんですよね。
 土蜘蛛は探偵団の担任の新庄先生の家に伝わる30億相当の首飾りをねらいます。土蜘蛛からねらわれていることを密かに悩んでいた先生ですが、先生の様子がおかしいことをこどもたちは見透かしていました。給食を残すとか、口癖の「緊張感」という言葉を使わなくなるとか。子供は意外と大人を観察しているものです。さらに大人を観察する子供を子細にとらえている作者もすごい。
 先生を心配してあれこれ推測する会話も、いかにも現実の子供が言っていそうで面白いです。こんな具合。

「そういえば、女性は四十歳を過ぎたころから、更年期障害というのが出るんだよ。うちの病院にも、患者さんがたくさんきてるよ。」(新庄先生は40過ぎのおばさん先生)
「先生も、その更年期なんとかなのか?」
「(中略)もしかしたら、なにか悩みごとがあるんじゃないの。サラ金に追いかけられているとか、失恋したとか。」
「まさか……。新庄先生にかぎって、失恋はないと思うよ。失恋というのは、最初はうまくつきあっていて、途中から失敗するんだろ。先生が男の人と親しくなれると思うかい」

 ものすごい毒を吐いています。