「とぶ船」(ヒルダ・ルイス)

とぶ船〈上〉 (岩波少年文庫)

とぶ船〈上〉 (岩波少年文庫)

とぶ船〈下〉 (岩波少年文庫)

とぶ船〈下〉 (岩波少年文庫)

 「砂の妖精」に並ぶ英国四人兄弟エブリデイマジックの定番です*1。2006年1月、岩波少年文庫の新版が出ました。
 長男のピーターは歯医者の帰りに、「いまもっているお金ぜんぶと、それから、もうすこし」を支払って小さな船を手に入れました。それが実は時間も空間も飛び越えていける魔法の船でした。ピーター、シーラ、ハンフリ、サンディの四人兄弟はその船でエジプトや北欧神話の世界など様々な場所に旅立ち冒険を繰り広げます。そして最後には魔法の船とのお別れが待っています。ピーターが船を返しに行く最後の冒険は、彼の子供時代の終わらせるための冒険でもありました。船を返すべきかどうか躊躇するピーターの様子がしみじみと描写されていて心を揺さぶられます。少年期の喪失を描いた文学としても名作だと思います。
 定番の作品ですから、おもしろさについては特にいうことはありません。行った先々ですてきな友達を得、楽しい目にもちょっと危険な目にもあう。次はどんな冒険が待っているんだろうとわくわくしながら読み進めていけます。
 今回再読して思ったのは、石井桃子訳のよさです。格調が高くてなおかつ温かみを持っている。この語りは古びませんね。

*1:本当は砂の妖精は五人兄弟なんですが。