「砂のあした」(小沢正)

砂のあした (創作子どもSF全集 2)

砂のあした (創作子どもSF全集 2)

 国土社の「創作子どもSF全集」第2巻。小沢正と井上洋介という、これまたトラウマにならないわけがなさそうな強力コンビです。もしかしたら小沢正の作品で動物の世界が舞台でないのははじめて読むかもしれません。そういえば井上洋介で現代ものというのもめずらしいような。このふたりが動物とかのコーティングをはがしてわれわれにとって身近な世界を描いています。いつもの二人の作品とは違った破壊力がありますね。
 サハラ砂漠に水爆を積んだ飛行機が墜落したという不気味なニュースが流れた1968年のある日、ススムと母親は猫のトイレ用の砂を調達するために公園の砂場の砂を失敬しました。ほこほこした笑顔を浮かべながら砂を盗む母親のイラストがいい味を出しています。井上洋介のイラストでこういう笑顔を見せるやつは、笑いながら人を殺せるタイプの人間だったりするのでおそろしい。
 閑話休題。事件はその公園の砂によってもたらされます。その砂には際限なく分裂増殖する性質があり、家は砂に浸食されてしまいます。ススムが顕微鏡で砂を観察すると、砂はだんだん大きくなって分裂しました。ところがその砂を牛乳瓶に入れ学校に持っていくと砂は増えず、だれも砂が増殖するというぼくの主張を信じてくれません。ここにススム達が砂を盗んだ公園の管理人の子供スナダくんが絡んできて物語は進みます。さて、この謎に小沢正はタイムマシンを使って説明を付けます。タイムマシンの性能に制限が加えられる理由がやや恣意的に感じられますが、その制限のために論理のアクロバットが展開され見事につじつまがあわされています。この論理性が作品のSFとしての質を高めています。
 そして姿を見せる驚愕の未来世界。もうすぐ砂が世界を浸食しつくし、人類は生きていけなくなります。この未来を描いた井上洋介のイラストは圧巻です。
 人類は砂人間に進化して環境に適応していました。しかし大人はもはや砂人間にはなれません。子供は砂人間に進化することができます。公園の管理人親子は未来からひとりでも多くの人類を救うためにやってきていて、砂人間になれる子供をせっせと誘拐していました。彼らに誘われたススムは、両親の制止を振り切って砂人間になる道を選びます。ここに人間の情の介在する余地はありません。生存への欲求のみが行動の動機になっています。
 小沢正作品には動物の世界を描いたナンセンス童話というイメージを持っていました。でも考えてみれば、彼の童話は非常に理知的です。SFと呼んでもまったく差し支えありません。この「砂のあした」のような純粋なSF作品はほかにないのでしょうか。あるならぜひ読んでみたいです。