「電送怪人 ネオ少年探偵」(芦辺拓)

電送怪人―ネオ少年探偵 (エンタティーン倶楽部)

電送怪人―ネオ少年探偵 (エンタティーン倶楽部)

 久村圭は学校の帰り道に「ブーン、ブゥゥーン」という怪しげな音を聞きます。あたりを見ると道ばたに落ちている携帯電話が振動していました。拾ってみるとメールが受信され、「悪魔が笑う煙突に向かって進め」というメッセージが表示されていました。圭がメッセージの謎を解きながら進むと、さらに携帯にメッセージが送られてきます。メールの指令通りに行くとやがて廃屋にたどり着きました。中を覗くといかにもマッドサイエンティストという風貌の老人が不自然に説明的な独り言を大声でがなり立てています。彼はどんなものでも電気信号に変換して瞬間移動させることができる物質転送装置を発明していて、それを使って復讐をたくらんでいるのだというのです。圭は電送怪人と名乗るその老人に見つかりおそわれてしまいます。
 「ネオ少年探偵」というタイトルからわかるように、レトロ趣味を感じさせる江戸川乱歩的世界が展開されています。たとえば圭たち少年探偵団が悪党を発見する場面はこのように語られます。

なんという幸運でしょう。いや、その正反対かもしれません。だってそうではありませんか。電送怪人は絵を盗む前には、密室にたてこもっていた青岩銀平をおそらくは同じ人体転送技術を使って、むざんに殺害しているのです。
そんなやつが、圭たちに後をつけられているのに気づいたら、何をしでかすかしれません。あぶない、あぶない。三人はいったいどうなるのでしょうか……。

 懐かしい語りかけ文体。それだけでもうおなかいっぱいなのですが、さらに子供を非現実に誘い込むアイテムとして携帯電話が使われているあたりに現代性も感じられ楽しませてくれます。
 芦辺拓は一般向けのミステリでも定評があり、もちろんこの作品も正統派の本格ミステリになっています。いたいけな少年少女をはてしないミステリ無間地獄へ誘い込む罠として活躍してくれそうです。