- 作者: 岡信子,木暮正夫
- 出版社/メーカー: 岩崎書店
- 発売日: 2005/11
- メディア: 単行本
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「魔女にハートをねらわれた!」光丘真理
ある意味問題作だと思う。ケントはとなりのアパートに住むモモコさんという年上の女性に恋をしています。ケントは自分の気持ちを乱すモモコさんは実は魔女ではないかと疑っていました。サッカーの試合に出ているときには、来ていないはずのモモコさんの応援が聞こえ、隣のアパートでは、たくさんのモモコさんの声が聞こえるというかなりやばい状態になっています。
モモコさんがどんどん増えていく。あまずっぱく香ばしいにおいも強くなってきた。そうか、モモコさんは魔法で自分をいっぱいだして、ぼくのためにアップルパイを焼いてくれているのかもしれない。
大好きなモモコさんがたくさんいたら、どんなにすてきだろう。
ほほえんだモモコさんの顔が、いくつもいくつも、花びらのようにまるく回っていく。
薬物中毒による幻覚?モモコさんアップルパイになにかやばいものを混入していませんか?結局モモコさんがたくさんいるように聞こえたのは、田中ミナというモモコさんの姪っ子の声のせいだったことがわかります。どうやら田中ミナはケントのことが好きらしい。しかしケントの眼中に田中ミナは入っていません。彼は田中ミナを「小さなモモコさん」としか認識していません。
モモコさんは、やっぱりぼくの魔女だった。
いつのまにか、雨が上がって、ベランダから陽がさしていた。
モモコさんは、光の中でわらっているその横で、小さなモモコさんがおなじようにわらっていた。
ぼくは、何度も目をこすった。
こんな悪夢のような幸福感の中で物語は幕を閉じます。薬中というのは冗談にしても、恋愛の陶酔感のみを切り取っているために、この作品はものすごく危うく感じてしまいます。
「エイトむすび」竹内もと代
恋愛には趣味の一致が大事だねというお話。でも、趣味のある男はそもそも恋愛に興味を持たない危険があるので要注意。
「ふたりで世界を救おうね」後藤みわこ
ヒロインの絵梨香は「鳥人間バーディー・ジョー」というアニメに夢中。でももう6年生なので周りの友達はアニメにあまり関心がありません。さらにアニメのヒーローのジョーに似ている(と絵梨香だけが思っている)別のクラスの西条くんを気に入っています。西条くんとは運動会の練習をする体育の時間しか一緒に授業を受けられないので、彼女は体育の時間を楽しみにしていました。大玉ころがしの練習中に絵梨香は西条くんに思わず「いつかふたりで世界を救おうね!」なんて口走ってしまいます。
絵梨香の空気の読めなさが痛々しくてよいです。
「ひみつのスケッチブック」矢野ユキエ
漫画。放課後の美術クラブを舞台にした恋物語。
「となりの犯人さん」山口理
瑞季の家の隣のアパートに年上のお兄さんが引っ越してきました。その人は指名手配の写真にそっくり。瑞季はお兄さんにつきまとい、身長や年齢などの個人情報を聞き出そうとします。
探偵趣味とストーカーは紙一重というお話。瑞季は自分に調査のためと自分に言い訳していますが、お兄さんが好きでつきまとっているのはバレバレ、端から見れば大笑いです。このアンソロジーでは珍しいコメディです。
「あかねいろの放課後」斉藤栄美
牧野は五年一組の女子の中で一番背が高く、英太はいつも年下っぽく扱われています。ある日いつも大勢の友達に囲まれているはずの牧野が、ひとりで帰っていました。英太が声をかけると、牧野は「家出しよっかな」と、思いがけないことを口走ります。英太は牧野にいろいろな場所を連れ回されることになります。
よく知っているはずの女の子が意外な面を見せる。二人で学校の規則を破って寄り道をする。ほんのちょっとした出来事なのに、気分は静かに盛り上がっていきます。しかし牧野のいつもと違う態度に、イヤな予感は持たされるわけです。最後に本当にさりげない調子で牧野が決定的な一言をつぶやく。ここで一気に英太の感情は爆発します。
叙情性豊かな好短編。軽く鬱になるけど、しみじみした味わいがあります。