「だれも寝てはならぬ」(ガース・ニクス、マーガレット・マーヒー他)

だれも寝てはならぬ (Kids’Night In)

だれも寝てはならぬ (Kids’Night In)

 現代のYA界の人気作家による短編アンソロジー。平均点でいえばあまりレベルが高いアンソロジーとはいえませんが、チャリティに参加している本なので、好きな作家がいれば買って読むか図書館にリクエストするといいでしょう。
 怖さという点では、水の滴る音を異常におそれるおばあちゃんの秘密を描いたマロリー・ブラックマンの「ぽた、ぽた、ぽた」や、哀れな司祭が罠に絡め取られる過程が恐怖を誘うフィリップ・アーダーの「珍品の館」が秀逸。それから心霊現象より怖い現実を描いたマーガレット・マーヒーの「影泥棒」も傑作です。現実の恐怖といえば戦争に翻弄される兄弟を描いたガース・ニクスの「ウサギのチャーリー」もシリアスで読ませます。
 奇抜な発想で読ませるのはやはりジェラルディン・マコーリアン*1。空を海に見立ててその上にさらに別の世界があるという「空の海」の設定自体はオリジナルではありませんが、空から錨が落ちてくるシュールな光景から始まり、未知の世界への憧れを描き出す手腕は見事だと思います。
 シュール系では他にも面白い作品がありました。デボラ・ライトの「動物園のふしぎな家具」は生きている家具を集めた奇妙な動物園のお話。ディック・キング=スミスの「海をわたったカエルの話」は、「フランス人はカエルが好き」という情報を信じて海を泳いでフランスに渡ったイギリスのカエルの災難を描いたブラックな小噺です。オチはバレバレですけど。作家の日常をシュールに描いたモーリス・グライツマンの「自伝のためのメモ」は単純に笑えました。読者の要望に真摯に応えるあまりに作品がめちゃめちゃになったり、子供に真剣に本を読み聞かせてあげなかった罪で法廷に引っ張り出されたり、作家の苦労がしのばれます。
 理解に苦しむのはエヴァ・イボットソンの「はみだし者」。四人兄弟の中で自分だけ出来が悪いことに悩んでいたセオが、自分の本当の居場所を見つける話ということになるのでしょう。この人の作品はこの短編と「ガンプ」の二作しか知らないのでこれだけで判断するのは性急ですが、それでもこの作家の露骨な血統主義には違和感を持たざるを得ません。

*1:マコーリアンなのかマコックランなのかマッコーリーンなのかはっきりさせてもらいたいです。「McCaughrean」てどう発音すればいいんでしょうね。