「あ・い・つ」(中川なをみ)

あ・い・つ (おはなしの森)

あ・い・つ (おはなしの森)

 よいダメ人間文学でした。
 小学三年生の潤が転校生の少年明日香をねたむというだけのお話です。明日香は大衆演劇一座の子供で、金髪ピアスという奇抜な格好をしていました。彼は見かけがかっこよくスポーツもできるのでたちまちクラスの人気者になります。明日香は見てくれだけでなく、むかつくことに気配りもできるとってもよい子なのでした。そういうわけですから、非は一方的に潤にあります。潤は明日香になにかひどいことをされたわけではありません。むしろ親切にされていました。運動会の練習の時はおもらしという小学生としては最大級のピンチに陥ってしまった潤を、明日香はあざやかに救ってくれました。でも、嫉妬という感情は理屈で割り切れるものではありません。親切にされれば親切にされるほど自分がみじめになって、相手を憎んでしまうということもあるものです。明らかに不合理な憎しみを持ってしまったことによる苦悩を描いた良質のリアリズム文学だと思います。
 ただしこの作品、ダメ人間ものとしては致命的な欠陥を持ってます。主人公もててるじゃん。小三にして彼女持ちでは立派なダメ人間とはいえません。