「守護霊様の恋 初恋コレクション4」(岡信子・木暮正夫・編)

守護霊様の恋 (初恋コレクション)

守護霊様の恋 (初恋コレクション)

 初恋をテーマにしたアンソロジーです。小学生高学年女子向けの朝読用なのでしょう。男子が教室で読むには度胸がいると思います。イラストは漫画家のものだし、イラストを担当する漫画家の漫画も一作はいっているし、いかにも今時の児童書な感じです。こういうキラキラした本を手に取るのが非常に恥ずかしかったです。ネタバレにはあまり配慮せず各作品を紹介します。

「初恋相談室」藤真知子

 自称「恋より辞書が好きなクールな優等生」のアミは、学校新聞のサイトで「初恋相談室」という恋の悩みに答えるコーナーを担当しています。恋愛に疎いアミはどんな悩みでも辞書で蓄えた知識を駆使してスパスパ解決しており、「恋の女神様」の称号をほしいままにしていました。ところがとうとうアミも初恋をしてしまいます。すると今までのようにスパスパとは答えが出せなくなってしまいました。そして過去の自分が書いたサイトのでの解答をみて納得するようになる始末。もう救いようがありません。
 この作品は、恋をすると人はおばかになってしまうという真理をあざやかに描いてしまいました。 

「守護霊様の恋」みおちづる

 結花はドッジボールのボールをぶつけられて、意識があっちの世界に飛んでしまいます。そこで自分の守護霊の乙音姫に出会います。乙音姫は同じく現在は守護霊になっている恋人笛の主様にあいたいと切望していました。でも、守護霊が守っている人間同士が特別な心のつながりを持ったときしか、守護霊同士があうことはできないのだといいます。乙音姫は結花に「目覚めたとき……最初に見る人」が笛の主様が守っている人物だと告げます。目を覚ました結花は乙音姫の願いを叶えるため奮闘することになります。
 結花は前々から気になっていた男子、清川くんが問題の人物ではないかとあたりをつけ、いろいろちょっかいをかけます。しかしそこはお約束、本当の相手はウザい男子の元気でした。そういうわけで、見当違いの空回りをする結花が笑わせてくれます。「乙音姫のため」という大義名分(口実)を手に入れたとたん傍若無人な振る舞いをするようになるのですから、虫のいい娘さんです。

「フーコの花火」佐野久子

 ある弱みを握られてしまったために、イソベくんは腐れ縁の幼なじみフーコに、花火大会に強制連行されてしまいます。軽いノリでつれてこられたのですが、フーコにはなにやら思うところがあるようで……。
 好きな女の子が困っているときはどうにかしてあげたい。でも、小学生だからできることは限られている。それが他人様の家庭の事情だったりしたら、なおのことふみこめない。それでもなんとかしたいと、そういうお話です。さわやかで切ない、好感の持てる作品でした。

「1番目の理由」白井裕子

 漫画。本屋で男子をストーキングする話。眼鏡を取ると美形という法則は男子にも当てはまるんだ。

「宇宙人のたまご」長井るり子

 女二人男ひとりの三人組のなかでカップルが誕生したために、つまはじきにされてしまったかわいそうな女の子の話。そうそう、この時期ってこういうことで劇的に人間関係がこじれてしまうんですよね。しかしこの作品、以前仲良くしていたのに引っ越してしまった少年を登場させ、さらに鬱なネタを持ってきます。作者の意地が悪くてたいへんよいです。 

「たぶん、スキ……」石崎洋司

 粗暴な男子がこっそりと子猫にエサをやっているのを目撃してしまうという、もはや手垢が付きまくっていてギャグにしかならないようなシチュエーションを、ギャグとして見事に昇華してみせた作品です。さすがはラノベ系児童文学の第一人者石崎洋司といったところでしょう。

「ここまでの木」矢部美智代

 父親の友達の息子で遠いところで暮らしている洋ちゃんが、久しぶりに沙紀の家へ来ることになりました。洋ちゃんは2か月前に母親を亡くしていて傷心らしい。この作品の大部分は、モノローグ形式で語られる沙紀が洋ちゃんを迎えに行く道すがら心の中で思い浮かべた、洋ちゃんへの思いや洋ちゃんとの思い出話で占められています。
 このシリーズではラストはしみじみした作品でしめるのがお約束になっているようです。この作品も、成長するにつれて変容していく洋ちゃんへの思いや、「ここまでの木」にまつわる思い出話が情感たっぷりに語られていて読ませます。主人公が大切なはずの思い出をころっと忘れている件については、この手の話のお約束なので、つっこみはなしという方向でいきましょう。