「絵の中からSOS!」(赤羽じゅんこ)

 主人公は小学5年生の少女いっこ。いっこが描いた人魚の住む島の絵に弟たちが海賊船の絵をいたずらがきしてしまったので、いっこはぶちきれてしまいます。ところが次の日の朝絵を見ると、不思議なことに絵の海賊船が移動していました。学校から帰ってから再度見ると、海賊はボートで海に繰り出し、人魚たちを追い回しています。絵の中の人魚に助けを求められたいっこは、絵の中にさらに自分の姿を描き加えます。するといっこはものすごい力で絵の中に引き込まれていきました。絵の世界に入ってしまったいっこは、人魚の女王様から洞窟に眠っている「海の守り手」を目覚めさせるように依頼されます。そしていっこは、自分の描いた絵の世界を冒険することになるのでした。
 異世界にとばされていきなり予言された勇者扱い、そして探索の旅に出るという王道のストーリーです。この場合の異世界はそもそもいっこの創作物なので、いっこの心の世界の旅ということにもなります。そんななかで見つけだされた「海の守り手」の正体はなかなかびっくりさせてくれました。とくにビジュアル的に。さすが佐竹美保はいい仕事をします。
 登場する怪物たち、人魚や、羽の生えた猿や、しゃべる花なんかが騒がしくて面白く、海賊もあくどさを見せる一方でまぬけな面も見せなごませてくれます。冒険ファンタジーとしてのおもしろさと、いっこの成長物語としての手堅さが同居している、バランスのとれたよい読み物でした。佐竹美保のイラストがたくさんついているのもうれしいところです。小学生に安心して薦められる良作だと思います。