- 作者: 花形みつる,やまだないと
- 出版社/メーカー: 偕成社
- 発売日: 2006/02
- メディア: 単行本
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うるさいママがいなくなり、自由に使える三万円という大金をおいていったので、マーくんはしばらくは悠々自適に過ごします。塾はさぼって、漫画雑誌を山ほど買い込んでお気楽に暮らしていました。ところが、その三万円がつきると、マーくんの家には現金がなくなり、マーくんは飢えに苦しむことになります。
さて、ここまでの説明を読むと疑問に思うことがでてくるはずです。ママは出ていったとはいえパパは家にいるはず、どうして飢えに苦しむような事態になってしまうのかと。それが、このパパが救いようのないダメ人間なのです。オタク趣味の持ち主で取り柄は顔だけ。ママの実家に紹介してもらった仕事も自分にあわないからと辞めてしまい、雀の涙ほどの退職金をもらってきますがそれもすぐに使い果たしてしまいます。そしてまともに就職活動をしようとせずに、自分にあった仕事を見つけるのだと非現実的なことをのたまっているのです。おまけに生活能力も全くなく、食事もマーくんに頼り切っています。まるでマーくんは、手のかかる弟と一緒に親に捨てられたような状態になってしまいます。
おなかのすいたマーくんは、終盤になると友達にゲームソフトを売ってお金を工面したり、橋の下でキャンプして暮らしているいるおじさんに施しを受けたりするようになります。それでもダメになると、とうとう犯罪に手を染めようかと逡巡するまでに追いつめられてしまいます。そのころパパは何をしていたかというと、現金を作るために大切なオタクグッズをネットオークションで売りさばくことを決意しました。その前にすべきことはいくらでもあるはずですが、このころになるとこのダメ人間にしては大変な決意をしたものだと思わされてしまいます。こんなダメ人間ですが、マーくんはパパのためにクリスマスに仮面ライダーアギトのベルトを買ってあげます。マーくんのけなげさに泣けてしまいます。
しかしこの作品、どういうスタンスで読めばいいのか悩んでしまいます。単にマーくんの不幸っぷりとパパのダメさを笑い飛ばせばいいのか。でも見方を変えれば、これは立派な児童虐待ものとしても読めます。パパにその意思はないにしても、パパに生活能力がないために結果的にネグレクト状態になっているわけですから。ママにしても、マーくんをパパと二人っきりにしておいたらどうなるかぐらいはわかりそうなものですから、厳しい見方をすれば彼女も児童虐待の加害者だともとれるでしょう。だとすればこの話はもっと深刻に受け止めなければならないかもしれません。事件を起こした張本人の少女がその後全然登場しないのも不可解です。このあたりは続編の「その試練」を読んでから判断したいと思います。