「ぼくのまっかな丸木舟」(久保村恵)

ぼくのまっかな丸木舟 (創作子どもSF全集 16)

ぼくのまっかな丸木舟 (創作子どもSF全集 16)

 創作子どもSF全集の第16巻。4年生のコースケとノリオは、学校の帰り道にまばたきをしない怪しげなセールスマンに声をかけられます。セールスマンは夜に六月川に行くと面白いものが見られると教えます。うまくそそのかされた二人は、激しい台風の中家を抜け出し六月川に向かいます。そこから二人の運命は分かれ、ノリオは人類の滅亡を予言する水谷博士によって水棲人に改造され、コースケも水棲人になるように勧められますが、彼は誘いを断って逃げ出します。
 環境破壊によって人類が滅亡する。子供は大人の手によって異形の存在に変容させられ、未来を託される。大人の都合によって子供の未来が左右されるという不条理をテーマにしています。
 この作品の特異な点は、登場する子供達が非常に野性的なことです。コースケとノリオは冒頭のプール掃除の場面でデッキブラシをふるい決闘を始めます。その後も何かにつけてけんかをします。また、予備校の事務員達がベニヤ板を打ち付けて台風に備える様子を、帰宅中のコースケが見る場面も印象的です。その様子から以前学生がベニヤ板でバリケードをはって暴れていたこと、機動隊が学生を鎮圧した後、今度は事務員たちが学生をふせぐためにベニヤ板を打ち付けたことなどを思いだし、このような感慨を抱きます。

おもしろいことがおこりそうになると、ベニヤ板でふせいでしまうんだ。ちぇっ。

そして事務員たちにむかって、「バカヤロー、バカにすんない。ベニヤ板なんかでふせげるもんかよー」と叫びます。コースケがなんでこんなにいらだっているのか不可解です。
 タオルで顔面を覆い帽子をかぶって台風の町に繰り出そうとするコースケの姿は、ゲバ棒持ってデモに行く学生の姿のようにしか見えません。この作品が発表された1971年は学生運動が花盛りの時代。そんな時代の空気がこの作品に影響を与えているのかもしれません。
 さらにコースケとノリオだけでなく、博士の娘という微妙なポジションにいながら独特の存在感を見せていたヨーコというキャラクターも見逃せません。
 画家の中村宏もとばしすぎです。この人の絵は佐野美津男の作品を追っていくうちによく見るようになりましたが、この本が今まで見た中で一番ぶっとばしています。モンスターにしか見えない魚達。コースケら人間の造型も、改造される前から改造されているとしか思えない異様なものになっています。台風で飛ばされている巨木や、川の波までがものすごい自己主張をして迫ってきます。そして水槽の中で泳ぐ水棲人達を描いた場面は圧巻。子供が読んだらトラウマになること間違いなしです。完全に中村宏にはまりました。画集とか出てないかな?