「真夜中のクロスビー大佐」(今岡深雪)

真夜中のクロスビー大佐 (旺文社創作児童文学)

真夜中のクロスビー大佐 (旺文社創作児童文学)

 麦彦は好きな女の子晶子ちゃんがエスカレーター式の名門小学校に転校してしまったのをきっかけに、中学受験に目覚めます。そのころ家にきた陶製の人形、クロスビー大佐が夜中に化けて出て、いやがらせのように勉強のじゃまをする。晶子ちゃんが出て行った家に新しく入った住人が学歴信仰にとらわれた自慢ばあさんで、これが嫁と共謀して孫の正美にとんでもない勘違い教育をする。この正美とコミットすることで、麦彦の考えも変わっていくというというストーリーです。
 1984年の作品です。学歴社会や塾通いが問題になっていた時代だったのでしょうか。麦彦はこのまま自分が公立中学にすすんだら、晶子ちゃんとは超えられない上下関係ができてしまうという危惧を感じ、受験勉強にのめり込みます。そこから正美とも関係や、クロスビー大佐の正体を知ることで麦彦の考えが変わっていく構成は説得力があり読ませます。結局は学歴などは外面、受験に成功しようが失敗しようが自分は自分だという結論になります。
 それはそれでいいのですが、やはり外面は重視されてしまうんですよね。考えてみれば晶子ちゃんが学期途中で名門校に転入できたというのは不自然です。何らかの不正があったのではと勘ぐりたくなります。となると、上下関係というのは学歴以前に存在していることになります。
 イラストは長谷川集平。彼には初恋の女の子を多く描いているような印象があります。本作の晶子ちゃんもなかなかの迫力です。