「まぼろしのペンフレンド」(眉村卓)

まぼろしのペンフレンド (講談社青い鳥文庫)

まぼろしのペンフレンド (講談社青い鳥文庫)

こんにちは。私は大阪に住む中学二年生です。東京のことを知りたいと思いますから、あなたの家庭やお友だちのことを、できるだけくわしく教えてください。返事には必ず同封の封筒を使ってください。
調査費を同封しました。使ってください。

 本郷令子と名乗る少女からどこからどう見ても怪しすぎる手紙(当時としては大金の一万円札つき)をもらった明彦は、いぶかしく思いつつも文通をすることにします。やがて周囲に怪事件が起きるようになります。明彦そっくりの人間があられて明彦になりすまし、明彦は怪しい男達につけまわされることになります。
 おなじみの侵略SFです。人間そっくりのアンドロイドを送り込み、徐々に世界を支配していこうという不気味な展開。敵さんは圧倒的な技術力をもっているのだから、そんなまだるっこしいことをしなくいてもよさそうなものですが、それはそれ。おもしろければOKです。
 本作の特徴は、後半がラブコメになってしまうことです。明彦が敵の手に落ち、美少女アンドロイドの本郷令子が姿を現してからの展開がすごい。侵略者は人間の生活パターンを観察するためのサンプルとして明彦を捕らえ、明彦の家そっくりのセットを作ってそこで普段通りの生活をさせます。そして本郷令子は明彦が快適に普段通りの生活をおくれるように奉仕してくれるのだそうです。なんでも令子には、普通のアンドロイドにはない奉仕用の感情回路が内蔵されているとか。しかし、観察が無事終了すれば明彦は消されてしまうのだから、ほいほいいわれたとおりにするわけにはいきません。なんとも倒錯しきった萌えシチュエーションです。イラストに緒方剛志を起用したかいがありました。明彦は危機を脱するため、頭の弱い令子を口八丁手八丁で籠絡しようとします。やがて令子にも人間らしい感情が芽生えはじめ、あらたに人間の少女が連れてこられると、その子に嫉妬を抱いたりするようになります。このあたりになるとむしろ明彦の方が悪役みたいになってきます。令子の変容していくさまはお約束ですが、お約束をきっちりこなしているからこそおもしろいです。