「水妖の森」(廣嶋玲子)

水妖の森

水妖の森

 第4回ジュニア冒険小説大賞受賞作。
 主人公のタキは凶暴な巨鳥レンバルの卵の殻を採集するレンバーターの少年です。ある日タキは人間にとらわれていた水妖の少年ナナイを助けます。水妖には穢れた水を浄化する力があり、タキの周囲では神のようにあがめられていました。水妖は成人する時に青の湖から月の湖に旅をするエンワルーというる儀式を受けることになっています。ナナイはまさにその旅の途上にいたのですが、「黒い影」と呼ばれる化け物の手先の人間に狙われていました。タキはナナイの旅を手助けすることになります。
 新人ということをぬきに考えても、ファンタジーとしては高い水準にある作品だと思います。登場する怪物が怖いのがいい。レンバルは自然の驚異を体現していて圧倒的な存在感があります。「黒い影」の方はそれはもうおぞましい。「黒い影」は周囲の人間と共生関係にあって、人間達はその共生の維持のために水妖をつけねらいます。これは完結されたシステムではあるのですが、水妖の犠牲なしには成り立たないという欠陥も抱えています。また、人間達も決して望んで「黒い影」と共に生きているわけではありません。深読みすれば制度と人間の確執を描いているともとれそうです。人間と「黒い影」の共生のあり方がすでにおぞましいのですが、そのシステムが破壊された時の「黒い影」の暴走はさらにおぞましい。「黒い影」に象徴される悪を丁寧に描いていることは評価されていいと思います。
 難点は最後まで主人公が非当事者で、どういうスタンスなのかわかりにくかったことです。タキがナナイに肩入れする理由は、水妖が信仰の対象であるということで一応説明はできるのですが、それだけでは弱いです。もう少しタキが本筋に絡むエピソードがほしかったです。しかし欠点はそのくらい。即戦力としてファンタジー界で活躍できると思います。次回作が楽しみです。
 また、イラストの橋賢亀の方もファンタジー界に定着してもらいたい人材です。装飾過剰なところがいいです。