「ヘブンショップ」(デボラ・エリス)

ヘブンショップ (鈴木出版の海外児童文学―この地球を生きる子どもたち)

ヘブンショップ (鈴木出版の海外児童文学―この地球を生きる子どもたち)

 アフリカ、マラウイが舞台。父親をエイズで亡くし、親戚の家に引き取られ迫害される少女ビンティの物語です。
 ビンティの父親は棺を作る腕のいい職人でした。ビンディは子役としてラジオドラマに出演していました。ビンティも姉も学校に通っていていい成績をおさめているようなので、マラウイにしてはそこそこ恵まれた環境にいたといえそうです。しかし父親が死んでからおそいかかってくる不幸は日本とは桁違いです。姉ジュニはHIV患者の娘ということで婚約を破棄されます。集まってきた親戚は家財道具、有り金を奪いつくします。そしてビンティとジュニを引き取ってこき使います。HIVに感染するのが怖くて素手では殴れないからハエたたきで殴るというのが生々しいです。
 ちょっと善玉と悪役がステレオタイプにわかれすぎていて、ストーリーが安易に情に訴えかけるものになっているのが気になります。しかし、どんな絶望的な境遇の中でも誇りを持って生きていくしかないというメッセージは力強くてよかったと思います。
 わたしはHIVの問題よりも、序盤の言論の自由についての問答の方が印象に残りました。独裁的だったマラウイの大統領バンダについてビンティは新聞記者にむかってこう言いました。

父のお客さんの中には、マラウイはバンダ大統領のときのほうがよかったと言う人もいます。仕事がたくさんあったって。

 記者は、「でも、自分の意見を言っただけで拷問を受けた人も多かったのよ。ビンティ、仕事と言論の自由と、どっちが大事だとあなたは思う?」と問いかけます。これに対するビンティの答えが考えさせられるものでした。

それは、その人がどれだけ貧乏かによると思います。

 もちろんわたしは言論の自由が大事だと思います。でも、この発言の重さの前ではたじろいでしまいます。