「北風のわすれたハンカチ」(安房直子)

北風のわすれたハンカチ (fukkan.com)

北風のわすれたハンカチ (fukkan.com)

 旺文社1971年刊の復刊。
 家族を人間に殺され1人で寂しく暮らしているくまが主人公。くまは寂しさをまぎらわせるために音楽を習おうと思い、家の前に「どなたか音楽をおしえてください。お礼はたくさんします。」と張り紙を出しました。やってきたのが北風、続いて北風のおかみさんでした。しかしこの二人はろくに楽器を教えずに、お礼だけ強奪していきます。
 最後に訪れたのが北風の少女です。少女はあのひどい親とは似てもにつかないいい子で、くまのためにホットケーキつくり、自然界にある音の楽しさを教えてくれます。くまは少女の話に一時は心が安らぎますが、やがてある疑念を抱いてしまいます。

それがわかるのは、この子がそばにいるからではないだろうか。この子が遠くへ行ってしまったら、また、何も聞こえない、さびしいじぶんになってしまうのではないだろうかと。

 少女はすぐに去っていきますが、青いハンカチを忘れていきました。
 むこうの世界への憧れ、それにともなう切なさ、さらにむこうの世界との境界が簡単になくなってしまうあやうさ。この作品は初期の方の作品ですが、安房直子のエッセンスがつまっています。昔のままのかたちで復刊されたのは喜ばしいかぎりです。