「うちの庭に舟がきた」(増田みず子)

うちの庭に舟がきた (ものがたりうむ)

うちの庭に舟がきた (ものがたりうむ)

 高度成長前の日本の下町が舞台。6年生のイズミは公害で汚れた魚が住めなくなった下町の川を山の手から来た教師にバカにされて腹を立てていました。その後下町は大規模な台風に見舞われ、イズミの家は床上浸水になってしまいます。成長したイズミは川のことを忘れて暮らしますが、自分の娘に川に魚が住んでいることを教えられ、「ようやくこの川に今着いたという気」がして終了。たった110ページの短い話で、ストーリーといえるほどのものもありませんが、川に少女のいろいろな思いが繊細に投影されていて、深読みしたくなる話です。これを単なる環境保護メッセージだと捉えては作品を読み誤ってしまうでしょう。「魚ではなく、いろいろな種類の虫たちが、水に浮かんでいた」という水の過剰にグロテスクな描かれ方。イズミの過剰なファザコン気質。作品の底にはどす黒いものが隠されているように感じられます。