「王さまうらない大あたり」(寺村輝夫)

王さまうらない大あたり (フォア文庫)

王さまうらない大あたり (フォア文庫)

 「王さまうらない大あたり」と「王さまなくした時間」が収録されています。
 「王さまうらない大あたり」は、占い師の予言に従ってブルー・トレインに乗った王さまがいろんな災難に遭う話。助手席に女の子を乗せてスポーツカーを乗り回すかっこいい王さまがみられる珍しい作品です。
 「王さまなくした時間」は電波度が高いです。最初のページに「ゆめの中に、つのをはやした女の子が出てきて、「ピ。」といって、王さまににおいのつよいくすりを、かがせたのです。あたまが、ツキンとしました。」なんて書いてあるのだから心配になってきます。ところがこれが意外なことに悲恋ものになってしまいます。つののはえた女の子ピはなぜか王さまのことが大好きで、王さまを苦しめるものを何でも排除しようとします。手始めに王さまを縛っている「時間」を消してしまいます。さらに大臣を動物に食べさせようとしたり、ナイフを持って悪魔に立ち向かったり、アクティブな活躍を見せます。ところが最後はかわいそうなことになってしまいます。過剰に愛されることが実はものすごく不条理な体験であることを教えてくれるお話です。
 さて、このフォア文庫版の解説で、令丈ヒロ子が「王さま」について興味深い新説を披露しているので紹介しておきます。令丈ヒロ子は病気になって「あ、うん」しか言わなくなり、わがままになった父親を見て王さまのようだと思ったと言います。そしてこのような仮説をたてました。

「王さま」というのは、人間の(特に男性)本質のすがたなんではなかろうかと。
ただ「息をして生きているだけでせいいっぱい」という状態になったとき、むきだしになるタマシイの素の状態が「王さま」じゃないだろうかと。