「きみが魔法使い」(三田村信行)

きみが魔法使い

きみが魔法使い

希望っていうのは、雪だるまみたいなものだわ。はじめはちいちゃくても、ころがしていけばどんどん大きくなるのよ。

 三田村信行だから当然怖い話を期待しますよね。しかもイラストが宇野亜喜良とくれば耽美的な味付けがされたシュールな話だと思ってしまいます。ところがこの本、意外なことに上のようなセリフがなんのてらいもなく出てくる希望にあふれたお話でした。
 マキの一家は三階建ての西洋館に引っ越してきました。この家の大家は偏屈な老人で、自分の住んでいる三階には近寄らないことを条件にこの館を貸し出していました。実はこの老人は、500年も生きている魔法使いでした。彼は人間にすっかり嫌気がさしていて、人間の愚行の歴史を記述しながら、暗い生活を営んでいました。そんな魔法使いがマキの家族との交流を通してだんだん変化していきます。
 自分の住む家に得体の知れない人間が住んでいるという設定は非常にわくわくさせてくれます。魔法使いを怪獣だと思う弟のあどけなさや、魔法使いを怒らせた弟をかばうマキのいさましさ。登場人物の造形も魅力的です。最後の最後でタイトルの意味がわかる構成も見事。単体で見ると間違いなくいいお話です。しかしこれが三田村信行の作品だと思うと、一連の怖い話の中にどう位置づけていいものやら悩んでしまいます。