- 作者: 寺村輝夫,杉浦範茂
- 出版社/メーカー: 理論社
- 発売日: 1987/12
- メディア: 単行本
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戦時下の重苦しさと日常生活のぬるさが同時に描かれているため強いリアリティが感じられます。「教え子を殺したくない」と主張した教師が学校を追放されるという重いエピソードの後に、担任がいなくなったためにクラス編成がかわり、主人公が女子クラスに編入していい目にあうという展開を見せるバランス感覚はすばらしいです。
しかし日常のぬるさは政情の不安定化とカンロクの成長に伴いだんだんうしなわれていきます。それが如実にあらわれているのが、何度か繰り返される校長の講話の場面です。低学年のころのカンロクは校長がありがたい話をしている最中に遊びのことを考えていたりします。しかし最後になると、神国日本にうまれたことのありがたさを語る校長の言葉に感極まって、カンロクは熱狂のあまりぶったおれてしまいます。もはや当時の熱狂はギャグになってしまっています。
カンロクも徐々に愛国少年になっていき、「朕、思わず屁をたれて、爾臣民くさかろう。お国のためだ、がまんしろ」とつぶやく兄を国賊とののしるようになります。
ハイライトは陸軍観兵式でカンロクが天皇を見る場面でしょう。群衆の中でこっそり天皇を見る場面はこのように描写されています。
天皇陛下は、まっ白な馬にのっていた。遠くて表情までは見えないが、まん丸のめがねが、キラキラ光っていた。めがねの光りだけが、神さまのように見えた。
天皇の実体ははっきりとせずレンズのみが印象に残る、非常に興味深い天皇の描き方です。杉浦範茂はこの場面を、鳥居のむこうにめがねを配置したイラストで表現しています。